「また家を出たんですか?」
「ええ。家に居てもつまらないので。」

「お嬢さん、今回で何度目だと思ってるんですか?」
彼はいつも私をそう呼ぶのね。

そんな風に呼ばれても嬉しくないわ。





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「早く帰りなさいよ、お嬢さん。」
「あなたにお嬢さんなんて呼ばれたくないわ。」
「・・・どっからどう見てもあなたはお嬢さんですよ。」
彼はいじわるだ。
本当は「お嬢さん」なんて思ってない癖に・・・

「お嬢さん、そんなところに座るとせっかくの着物が汚れますよ。」
「別に良いわ。着物ぐらい・・・。」
彼は困ったような顔をした。
ざまーみろって思う・・・・・

ううん

本当は困らせたくない。

こんなことして困るってのは百も承知。

でも・・・彼の前だと我侭になっちゃうの。

何故でしょう?


「早く帰らないと・・・心配なさりますよ。」
「別に・・お父様もお母様も思い知ればいいんだわ。」

いつも私を見てくれない。
すべて家の為・・・お金の為・・・

「そうすねなさんなって。」
彼は隣に座りタバコを吸い始めた。
初めて、私の隣で吸ってるところを見た。

普段は臭いがつくからってやめるくせに・・・
今日はめずらしいのね。

「お嬢さん・・今日はとりあえず帰りなさい。」
「・・・すぐそう言うのね。」

まるで・・・

「まるで私と一緒に居たくないみたいな言い方・・・。」

隣を見たら彼はきょとんとした顔をしていた。
珍しい顔・・・。

「しょうがねぇな。」
彼はため息をついていた。
あきれてる・・?

、たまにでいいからまた顔みせろ。」
「・・・・名前で呼ばれたの初めてだわ・・。」
「そうでしたっけ?」
彼はとぼけたふりをしていた。

「じゃぁ、またな。お嬢さん。」

「・・・・お嬢さんなんかじゃないわ。」

彼はそのまま屯所に戻って行った。
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