「  卒業生代表、跡部景吾。」

「はい。」



凛々しく立つあいつの姿、いつもよりなんだかカッコよく見えて


しっかり見つめていようと思ってたけど

気付けば涙でいっぱいになり、



彼の最後の大役なのに


零れ落ちる涙の所為で まっすぐに見れない








テニスコートと思い出と彼









「跡部先輩、卒業おめでとうございます!」

「おめでとうございます!先輩!」

「これ、花です・・・」

「高等部でも頑張ってくださいね!応援しています!」


跡部の周りには、ざっと100人はいるんじゃないかってくらいの在校生たちが取り巻いてる。その半分は泣いてて、叫び声も聞こえる。

あいつはほとんど身動き取れない状況で、彼女のあたしが入り込む隙だって微塵もなかった。

他のテニス部の先輩たちの周りも女子がいっぱいで、おめでとうございます言うのはもうちょっと後の方がいいな。






入学してすぐ、1つ年上の幼馴染の跡部に 強制的に男子テニス部のマネージャーをさせられて、付き合うようになって 2年経った。



一緒に笑って一緒に泣いて、時には怒ったり怒られたりなこの先輩たちとも、もうお別れ


跡部、岳人先輩、忍足先輩、宍戸先輩、滝先輩、慈朗先輩・・・・・・


後輩達へ向けられる、みんなのいつになくやわらかいその笑顔を見てると、覚悟して来た今日というこの日が、妙にリアルに突き刺さる。



お別れ。




涙が止まらない、


どこか人のいないところに行こう。





いつも先輩たちとお昼を食べた屋上は 今頃はきっとカップルたちの溜まり場になってるから、行けないよな。

慈朗先輩がいつも寝ててしょっちゅう起こしに行ったあの桜の木の下も・・・きっと人がいっぱいいるし。

・・・・テニスコートは・・・・・・・




「・・・・居ないかな、誰も。」






あたしの仕事場、先輩たちのステージ。

観客席の端に座って、コート全体を見回した。



宍戸先輩が滝先輩に勝ったのは、あのコート

去年、そのころ2年だった跡部に「跡部先輩って呼べ」って言われて言いあいになったのは、あのコート

ここからは死角になってる一番奥のベンチの後ろは 跡部が初めてあたしにキスした場所


ここは思い出がつまりすぎてて、胸が締め付けられた。

跡部が、先輩たちが高等部に上がったら、このコートを使うことはなくなるんだろうな

高等部は高等部用のコートがあるし




「・・・・・・・・寂しいな」

「独り言か。それこそ寂しいよな。」




聞き覚えのあるその声に、あたしはとっさに振り向いた。





「・・・・跡部。」

「何だその顔、泣いてたのかよ。」

「・・・泣いてたんじゃなくて、現在進行形で泣いてます。」



あたしの顔の高さに合わせてかがんで、手で涙をぬぐう跡部。

それでもあたしの涙は枯れることなく、ぽろぽろと零れ、地面と頬を濡らした



「・・・・卒業・・・しないでよ」

「バーカ。無茶言うな。」

「・・しないでよ。」




涙を拭う手を止めて、かわりにあたしを抱きしめる跡部。

いつもより優しくて、いつもよりあったかい跡部の背中に、妙におちつきを感じる。




「お前が俺にベタ惚れなのは分かったから。泣きやめ。」

「・・・・・・・・うっさい。」

「事実だろ。」


「当たり前じゃん。」




誰も否定してないもん、そう呟いたとき、跡部はあたしを抱きしめるその腕を離した。

そしてすぐ、跡部の唇とあたしのそれが触れた。

キスとも言えない、ほんの一瞬触れただけ。

跡部は一言、笑えよ、と言って、またあたしを抱きしめる。




「跡部のばーか・・・。」

「アーン?」

「・・・・・・・だいすき。」

「それでいい。」








「高等部行ってもよ」

「・・・ん。」

「たまには部の様子見に来るし。」

「うん・・。」

「高等部だって近ぇんだし、登下校だっていつも通りできるんだぜ?」

「・・・そーなの?」

「ああ。もちろん、デートも。」

「・・・・」

「心配すんな。俺はお前から離れねーから。」

「・・・・・・・・うん。」

「うん。」


「・・・大好き。」

「知ってる。」









また、キスとも言えないような優しいキスをして


顔を上げたら





跡部がめずらしく、嬉しそうに笑ってた。










  「おーい、二人ともー!」


「あ・・岳人先輩」


  「記念写真記念写真!イチャついてねーでさっさと来ーい!」


「・・・だってよ。」

「いこっか!」

「ああ。」



立ち上がって、コートへ向かって観客席を降りた。










離れることが怖いなんて どうしてこんなに怯えてたのか

あなたと繋ぐこの手が 離れることなんてありえないのに



繋がれた絆は 離れないの



信じていいよね。






















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