宍戸と幸せになりたいなら 何が何でもこの腕をふりほどかなきゃ

それができないなら 今すぐ宍戸と別れなきゃ


どっちもできないなんて

こんな気持ち

こんな自分



最低








それは悲しい音で








「あの、長太郎・・・・」

「・・・・すきです」


後ろには長太郎の体温があって

前には長太郎の腕があって

あたしはどうしようもなく 長太郎に抱きしめられながら呆然と立ち

呆然と



宍戸のことを考えていた



「すきです」

「 あたし、あの・・・・」


どうしよう、こんなの

こんなの、どうしよう



宍戸はあたしの愛する彼氏で

愛すべき相手


長太郎はあたしの大好きな後輩で

信頼する相手



長太郎への好き、が

宍戸への好き、と違うのは分かってる


分かってるんだけど




でも長太郎を 大好きな後輩を 失うのが怖くて

この腕を振り解けないでいる



こんなあたし 最低だ




「長太郎、あのね・・・」

「俺じゃダメなんすか。」


「そんなんじゃなくて」

「なんで俺じゃダメなんですか」


「長太郎、聞いて・・」


「俺だって、先輩のこと大好きなのに・・・っ!!」





ガチャ






夕日に染まった部活後の部室で

ドアの開く音が 小さく響いて


全ての動き スローモーションに うつった




ドアノブを持ったまま 立ち尽くす宍戸

立ちつくすあたし


抱きしめた腕を離さない 長太郎



「おい。」

「・・・・・何すか」

「離せよ」



やだ やめて



「何をですか」

「その腕だ」



やめてよ




「・・・・・・・・・嫌です」




長太郎の抱きしめる力

ぎゅっと強くなって


あたしはただ 抵抗もなにもできなくて


目に涙を溜めてうつむいていた


宍戸の顔が見れなかった


もちろん、振り向いて長太郎の顔を見ることだってできなかった








鈍い音がした

嫌な音だ









瞬間、抱きしめられていた長太郎の暖かい感触はなくなって

人が倒れこむ音がした



ポタっという 水の流れる音がした



それだけが あたしの発した音

涙がこぼれた 静かで小さな 音



声がでなかった

やめて、やめて、やめて。

その言葉だけがあたしの頭のなかでぐるぐる回って



涙だけがとめどなく流れて




ぽたぽたぽたぽた。




「・・・・、帰るぞ」




宍戸の口調は怒ってたかもしれないし

そうじゃなかったかもしれないけど


あたしはただ、宍戸に引かれる自分の手を

それでもまだ、宍戸に惹かれてる自分の心を


そのまま力に任せる事しか出来なかった



「・・・・・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・」



やっと言葉になった言葉

でも 頭の中にはなかった言葉

長太郎は、悔しそうに苦しそうに悲しそうに

ただ 下を向いていた




宍戸と手をつないで 長太郎を残した部室を去る

あたしのせいで喧嘩しないで、なんて

そんなありがちなヒロインみたいな状況じゃない


これは ただはっきりしなかったあたしの所為で


あたしを愛してくれる宍戸の所為じゃないし

あたしを好きになってくれた長太郎の所為じゃない



一瞬でも宍戸を裏切りそうになった

一瞬でも宍戸を傷つけそうになった


・・・ちがう


傷つけた、裏切った


結果 長太郎をつきはなした、傷つけた




こんなあたし、なんでこんなあたしなんかが



また、ぽたぽたという音がした




「・・・・・・・泣くな、お前は悪くねぇ。」





繋いでる宍戸の暖かい手が、あたしを支えてくれてるみたいだった。

ぎゅっと手に軽く力をこめると ぎゅっと握り返してくれる

そんな小さな優しさが、愛しくて

あたしのなかにはやっぱり宍戸しかいないのに




好きだけど

でも




なんでこんなに 上手くいかないの




謝れば済む問題じゃないのは分かってるけど



「ごめ・・・・・・・・ね・・・・・・・・っ」



今は謝る事しか出来ない


静かに手を握る




また、ぽたぽたという音がした

























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