「また戦いに出るの」

「・・・ああ」

「いつ帰ってくるの?」

「さあな」

「・・・いってらっしゃい」

「いってきます」





遠くに行かないでほしい、いつも私の側にいて 私を愛していて



ねえ 遠くに行かないで









36ヶ月










彼の背中を最後に見たのは、二年前の春

もう桜は散り始めていて、散りゆく花のかけらの中を歩くあいつの背中を追いかけた


だけど届かなくて、捕まえられなくて


そして、二年経った











仕事帰りの夕方に一人で飲みにいったら、カウンターのわきに坂田がいた。

半年ぶりに会った坂田は私を見て、おう、と一言言って自分の隣の席に座るよう促した。


そして坂田が挨拶代わりのように、いつもどおり私に問う




「高杉、会ったか?」




「・・・会ってない」

「連絡してねぇのかよ」

「しないよ。」



「・・・寂しくねぇの?」



どうしてこの男はこう、私の胸に付き刺さる事をはっきり言うんだろう



寂しいよ、だって私はあいつが好きだもの

でもあいつはきっとそうじゃない。きっと寂しくなんてないのよ。



でも信じて待ってるの。

ほんの少しの可能性と、朽ちることを知らないあいつへの愛を信じて 待ってる






そしてまた、坂田が私に問う



「会いにいかねぇの?」



「馬鹿じゃないの」あたしはそう応えた

会いに行かないのは、彼を待つあたしにただひとつ残った 意地だ


あたしはただ 彼の帰りを待つだけ

あいつがあたしを必要として またあたしの前に姿を現すのを待つの



だって最後の日に あいつとそう約束したから




『戦いが終って、もう全てをやり遂げたとき、まだ高杉が私を好きでいてくれるなら、会いに来てね。待ってるから』





手紙は書かない

私からあの人を求めたりはしない

だって私は信じてるから





「だから、待つ。」

「・・・そうか」




坂田がその後高杉の名前を口にすることはなかった。

そんな些細な優しさにも涙できてしまうほど あたしは弱くなってたんだ。


こんなに涙もろくなったのは みんなみんな 高杉の所為よ



















季節は一巡して、また新しい春が来た

数えたくもないのに数えてしまう。彼を最後に見たのは三年前。

今でも高杉の温もりは 忘れてない。忘れる方法を忘れてる。


昨日の仕事帰りに偶然会った新八君が、そろそろ桜が全部散るって教えてくれた。



彼の温もりとあの後姿を思い出しながら、川べりの桜並木を歩く。



想いと涙は枯れないけれど、それらに反して桜は儚く舞い落ちる

その姿だけをとれば、それらは悲しみに満ちていて寂しく弱い。


だけどそれでも私は 満開の桜よりそんな儚い桜の方が好き。



だって




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ」




散りゆく桜の花弁に紛れて




「よう。」




顔だけ振り返ってくれるあなたの背中がだいすきだから




「あ?お前何泣いてんの」




懐かしい声

36ヶ月前に聞いたときと全く変わらない



この声は。




高杉



高杉





「高杉・・・」






こんなに泣いてしまうのは、きっと全部高杉のせい





「・・・・・遅いよ ばか」

「やっぱ待ってたんだな」

「当たり前・・・」





儚く寂しいと感じてた桜だけど





訂正。






私を抱きしめるあなたの腕の中から見る 散りゆくそれらの花弁は





寂しさも悲しさもなく  ただ、待ち続けた私へのプレゼントのよう








「・・・おかえり、高杉」

「ただいま。」






涙が枯れないのは 全部全部高杉のせい



だけどこんな風に 泣き笑いするのは36ヶ月目の春だけ。





桜は散るけど、想いは散らない









、待っててくれてありがとな」








3回目の春、   あなたが帰ってきた。














(愛してると囁くあなたの低い声  私はまた堪えきれずに涙を零す)


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