少年と少女





昼休みの前庭は、天気が良い日はわりと心地いい。

人影は多くも少なくも無い。

一人でベンチに腰掛けていたら、獄寺がジュースを一本差し出した。


「やる。」

「・・・ファンタか。」

「んだよ、文句あんのか」


炭酸飲めないの知ってるくせに・・・。

獄寺は、何も言わずにあたしの隣に腰掛けてた。


風が吹いて、木の葉の呻く音が聞こえる。

涙で濡れた頬に風が当り 少し冷たかった。


プシュッ


ジュースの缶を空けると短くて爽快な音がした。

一口飲むと、甘くて炭酸独特の舌が痺れるような感覚がした。


「・・・・・・」

「もう飲まねえの?」


あたしの苦い顔を察したのか、獄寺が言った。

うん無理、と言って少し頷く。


「まじかよもったいねえな。せっかく買ったのに。 飲むぞ」

「   あ」


ひょい、と私の手からその缶をとって 一口二口飲む。


「・・・間接チュー。」

「 バッ・・・・カじゃねえの!?」


獄寺は胸ポケットから煙草を出して 一本加えて火をつけた。

誤魔化したってわかるよ、獄寺が照れるとき。

白い煙が 青い空を泳いで消えた。


「校内でそんな堂々と吸ってていわけ?」

「うぜえな 良いだろ別に」


ふう、

もう一度白い煙をふかす獄寺。



「停学になるかも。」

「別にいいし」

「怒られるよ」

「だから何。」

「吸わない方が良いって」

「うるせえな、なんだよ。今までそんなこと言わなかっただろ」

「・・・だって、」


私の口からとっさに出たことば。



「恭弥くんが・・・」



天気は快晴。雨も降らない なのに気持ちはいっきに肌寒くなった。

木の葉が一枚舞い降りて、既にそこにあった落ち葉たちのひとつとなった。


「・・・・・風紀委員長に怒られちゃうよ。」

「・・・・・・・・別にいい。」


私は少し下を向いた。

目がまた 少しだけ潤んできた。


「・・・あー うっぜえな いいだろ別に」

「・・・・・・・・だよね」

「告ったんだろ?ふられたんだろ?いーじゃねえかよ泣けば!」

「・・・・・・・・・」


ははっ なんで獄寺がいらいらしてんのよ、あたしは言った。

そしたら獄寺は


「・・・ 笑ってんなよ。」


笑うさ、いくらでも。


「いや〜 獄寺の前では泣けんよ」

「・・・あ?俺がどこぞの牛のようにひやかす様な男だと思うのかよ。」

「いやいや、ちがうけどー」


あたしだってそんな強い女じゃないし、泣きたいよ、泣きたい。

けど泣かない。

今泣いたらきっと 獄寺は幻滅するよ。

獄寺にだけは失望されたくない。見捨てられたくないよ。


恋する気持ちも失って 信ずる友も失ったら あたしは何のために生きればいいの。



「・・・わかった、もういい。」

「・・・・へ?」

「悪かったな邪魔して。」

「どこ行くの?」

「俺の前で泣けねんなら、俺消えるから。じゃ」

「・・・いやだ!行かないで」

「・・・・・・・なんだよそれ」

「・・え、あ・・・なんだろ」

「・・・〜〜〜〜!!山本にでも慰めてもらえ!アホ!」

「な、なんで怒ってんの?」

「怒ってねえよ!」

「怒ってる!」

「怒ってねえって!お前が俺の前で泣けねえとか言うからだろ!?」

「怒ってんじゃん・・・・」

「・・・・・・・・・!」



何言ってんの、めずらしい。



「あれ、顔赤いよ?どうしたの」

「・・・・〜〜〜!?」

「うっそピョーン (ほんとは嘘じゃないけど)」

「(うぜ・・!!) 殺すぞまじで」

「・・別に良いよ 死んだらほんとに恭弥くんのこと忘れられる。」

「・・・・・・・・・・」


「死ぬ以外に忘れる方法なんてあるのかなあ。」



恭弥くんのこと。



小さく呟いて、はあ、と一言ため息をついた。

獄寺はすこし頭をくしゃっと掻いて、さあ、と一言言った。



「俺にはわかんねえけど。」

「・・・だよね。ごめんごめん」

「わかんねえけど、」

「・・・・・・・・・?」


「雲雀だけが男じゃねえだろ」




ほんとは分かっていた。

分かってたんだけど、でも誰かが私に言わない限り、分かった気になれなかった。



「・・・・・俺とか。」






私はいつでも誰かのことが好きで、ほんとは忘れる事なんか簡単で、きっと誰か好きになれば私はその人に夢中になれると



分かっていた。






「・・・俺にしとけ。」






獄寺が買ってきたファンタの缶から、水滴がしたたる。

瞬間、恭弥くんの顔が、しゃぼん玉のように私の頭に浮かんで消えた。



彼の顔をかき消したのは煙草の煙。






私は、わかっていたんだ。  きっと。







<2005/12/07>

名前変換意味ねー・・・



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